プロ野球元年  
  戦力均衡をしてこそ            
                             ノンフィクション作家 佐山和夫

 プロ野球の労使交渉が決裂し、初のストライキが決行されて1年。「改革元年」をうたった今シ−ズンは、新規球団の参入、交流戦の開催、新ドラフト制度導入といった新たな試みが始まり、プロ野球の歴史のタ−ニングポイントともいえる節目の年だった。だが、各チ−ムの「戦力均衡」という本質的な改革に手をつけていない点で、「改革」の名に値しないのではないか。
 プロ野球という興業が成り立つには、リ−グ内のチ−ム力を均等化することにつきる。対戦相手は強くなくてはつまらないが、強すぎても面白くない。リ−グ戦ではあるチ−ムが1勝すれば、必ず敗退するチ−ムが出て、負けたチ−ムのファンは不満を持つ。長いペナントレ−スは、そんな負けたチ−ムの不満が増大していく過程だと見ることができる。多くのファンを満足させるには、全球団が優勝争いを演じることだ。そのための方策は、戦力を均衡させる以外にはない。新人を選択するドラフトも、選手の移籍を自由に認めるフリ−エ−ジェント(FA)も、いい選手を分散させることが必要条件のはずである。
 そうした観点から、この1年を振り返れば、球団オ−ナ−たちには「運命共同体」としての危機感が乏しく、本質的な改革は遅々として進んでいないことがよく分かる。
 ドラフト制度改革では、前年成績の下位球団から指名できる完全ウエ−バ−方式の導入が期待されたが、自由競争を「企業努力」と主張する一部球団の反対で実現しなかった。新ドラフト制度は、大学生・社会人を入札なしでとれる自由獲得枠を二つから一つに減らしたものの、「希望入団枠」と名を変えて残した。有力選手に裏金を渡す不正の温床になっていると指摘されているにもかかわらず、違反行為に対する監視機関や罰則も設けなかった。
 本来は労使が一体となって球界改革を進める構造改革協議会で話し合うべき内容にもかかわらず、オ−ナ−会議で決めてしまったことからも球界の利害ばかりが先行したことが明らかだ。
 FAも取得できる年限を現行の9年から8年に短縮したものの、FA選手を獲得した球団はドラフトの指名権を譲渡する、といった戦力均衡のための配慮もなかった。
 典型的に表われたのは、新規参入した楽天への仕打ちである。球界に新風を吹き込む役目もあったにもかかわらず、戦力に不安がある楽天が、各球団から選手を供出してもらうエクスパンション(拡大)ドラフトを希望しても受け入れようとしなかった。
 最後までファンの心を引きつけようと、パ・リ−グが上位3チ−ムのプレ−オフ制度を導入したが、それは小手先の改革にすぎない。ペナントレ−スを勝ち抜く意味合いが薄れ、理屈に合わないからだ。いっそリ−グの垣根を取り払って、12球団を4チ−ムごとに東、中、西地区に分け、各チームの優勝チ−ムと、次に勝率が高い1チ−ムをワイルドカ−ドに選び、4チ−ムでプレイオフをしたらどうか。地域を越えた試合を増やせば、いろんな対戦も楽しめる。
 情けないのは、すべての権限を託されているコミッショナ−の指導力のなさだ。オ−ナ−会議を越えたより高い立場で、より高い判断を示すつもりがないなら潔くその職を離れるべきだろう。(談)
朝日新聞 平成17年10月7日
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2005年シーズンで変わったこと・変わらないこと 「改革元年、何が変わったか?」
コモエスタ 坂本

【変わったこと】
セ・パ両リーグ交流戦の実施
2005年シーズンから、ファンにとっては「やっと」の思いのセ・パ交流戦が実施されることになった。期間はGW明けの5/6(金)から6/16(木)までの1か月強で、1チームにつき36試合。シーズン全146試合の約25%と、初年度としては思い切った導入である。

この36試合の中で、各チームは他リーグの6チームと、ホーム&アウェイ形式で3連戦を2回対戦することになる。3連戦を主体とした年間スケジュール、メジャーリーグのインターリーグのような特定球団のみとの対戦の回避、また主催ゲームの公平性を考えると、これしかなかった方法だと思うが、プロ野球ファンにとっては嬉しい限りだ。

なぜ交流戦を早く実現できなかったかと言えば、主に巨人戦のTV放映権問題に起因する。巨人以外のセ・リーグ球団にとって、1試合1億とも言われていた主催ゲームの巨人戦全国中継の放映権料は球団経営の命綱だ。14試合あった巨人戦主催ゲームが11試合に減るわけだが、球界再編圧力の中で妥協できるラインだったのだろう。

しかし、その放映権料デメリットを差し引いても、交流戦効果・ファンの望む改革はプロ野球全体にとって有形無形のメリットがあるように思える。また、交流戦の時期設定も(ここしかなかったのだろうが)非常に妥当である。メジャーリーグの交流戦は6月に行われるが、今年の日本プロ野球の交流戦はGW明けスタートである。普通に集客が望める開幕からGWを経て、シーズンに中だるみが起きやすいGW明けから梅雨場と、客入りの落ちやすい時期にはうまいテコ入れと言えるだろう。交流戦が明けたら、オールスター休みまでの前半戦終盤に突入するというのも良いスケジューリングだ。
新規参入球団の誕生
言うまでもなく、東北楽天ゴールデンイーグルスだ。オリックス・近鉄が合併し、5球団となったパ・リーグに、高橋ユニオンズ以来半世紀ぶりに新規参入球団が誕生した。楽天イーグルスの運営方針は、球団買収で新しいオーナー企業となった同じIT企業のソフトバンクと対比的で興味深い。

ソフトバンク球団の運営方針が、「世界一」を目指した従来型の「札束補強」であるのに対し、楽天球団は「健全経営」を志向し、自らサラリーキャップ(年俸総額)制度を採用している。現在、アメリカのアイスホッケーリーグ、NHLがサラリーキャップなどを巡る史上最悪の労使紛争となっているが、この球団が率先したサラリーキャップ制度は、新球団だったからこそ簡単に採用できたものだと言えるだろう。この楽天の方策の行方に注目である。

観客の実数発表
とにかく意味があったとは思えない上に混乱の元だった、旧来の観客数の水増し発表。とにかく目分で数えても1000人は入っていないような試合に、数千〜1万数千などという公式発表を出される時代が続いていた。水増し発表が常態化しているある球団の選手が、どう見ても数千人しかいない観客を、大まじめに3倍ぐらいの数字で把握しているという笑えない話も体験している。水増し発表された観客数が身体に染みこんでいるのだ。

ところが、2005年のパ・リーグ開幕直後から突如として観客数の実数発表を始めた。この数字が「有料入場者数」なのか、はたまた「観衆数」なのかはまだ伺い知れない部分があるが、旧来よりは確実にリアルな数字である。例えばインボイス西武ドームでの対オリックス開幕戦の3/26(土)は18,698人、同第2戦の3/27(日)は12,071人である。去年までならば、例えば3万2千、2万8千などと発表していただろう数字だ。これも今後の行方に注目である。

低反発球の使用
2005年シーズン、いわゆる「飛ばないボール」を12球団中8球団が採用した。昨年私は「飛ぶボールを検証する」の記事で、「飛ぶボール」の功罪、主に罪の部分を論じたが、野球の低レベル化・投手等への危険性・国際使用球との乖離など、飛ぶボールを使用することによる打高投低的な面白さというメリットよりもデメリットの方が大きいことに対する球界の認識は高まってきたようだ。

台湾プロ野球がアテネ五輪対策として2004年シーズンから低反発球の使用を開始したが、試合の内容が変わった。2003年シーズンと比較してホームラン数には大差がなかったものの、得点は1試合チーム平均0.5点ほど下がった。また、低反発球の影響は、パ・リーグシーズン開幕直後である現在でも、目で見てわかるほどである。データは少ないが、パ・リーグ15試合の1チーム平均得点は(26-0という試合を含むにも関わらず)4.57点である。去年のパ・リーグのそれが5.12点だったことから考えると、早くも数字に現れているかもしれない。

見やすい観客席への改造
せっかく野球場に足を運んだのに、鳥カゴか蚊帳のような高いネットや塀などが臨場感を損なっていた。そこで今シーズン、東京ドームや横浜スタジアムなどで、いわゆる「フィールドシート」などのグラウンド前特別席や、ネット・スタンドの改造が進んだ。とかく「観客離れ」ばかり招くような球場という現場の姿も、少しずつ変化していっているようだ。

その他
細かいところになるが、IT企業の新規参入による、野球IT化の進展(目立つものとしては、ソフトバンクホークスのフルストリーミング配信など)や、地方球団による地域密着型運営への取り組み、さらに細かいところではラッキーセブンにビジターチームの応援歌を流す球場や、暴徒化する応援団の排除への取り組みなど、少しずつではあるが、一般の観客が野球をより楽しみやすい、球場に足を運びやすい流れに移行しているように感じる。また、プロ選手の母校での練習参加承認など、プロ・アマ間の交流や野球のすそ野拡大への道もようやく一歩進んだと言えるだろう。

しかしながら、一方で「プロ野球は何も変わってないじゃないか」と断じる人たちもいる。確かにこれまでと全然変わってない部分も多い。歴史によって培われた文脈にはなかなか変えづらい部分があるのも事実で、またその変えにくい部分がプロ野球運営の根幹に関わっている点も多い。次項では「変わらないこと」を検証する。

【変わらないこと】

進まないドラフト制度改革
選手のリクルーティングとそれに伴う費用(契約金・新人年俸・裏金など)の問題は、新人採用の公正さと透明性を欠くとともに、それ自体球団経営を圧迫するものである。特に多い場合は数億とも言われる裏金や、それに連なるアマチュア人脈などは、プロ・アマ野球界の構造問題と言うべきものである。

ドラフト制度改革では、自由枠の撤廃や完全ウェーバー制の採用などが常に話題に昇るが、逆ウェーバー制案や自由枠の存続・混在などの意見が散逸し、なかなかまともに収束する気配がない。契約金や新人年俸の「申し合わせ」なども、図抜けた選手を独占的に確保したい球団がある限り、なかなか変わらないことかもしれない。ここはオーナー会議だけではなく、選手会サイドを含めた委員会でウミを出し切る必要があるだろう。

うやむやな選手年俸の削減案
ところがその選手会サイドも歯切れが悪い。シーズンに突入したので、球界改革への取り組みを選手サイドに要求するのは酷かもしれないが、高騰する選手年俸のダウン率の譲歩や、FA制度の見直しなど、選手会サイドから提言すべきことも多い筈だ。

しかし、去年の選手会ストも大局的に言えば労使交渉だったように、選手や選手会事務局サイドにも長期的な視野に立った野球界運営よりも、保身の傾向が強いと目されがちである。とにかく今シーズンはまず球団経営サイドが観客実数発表などに伴う透明性のある経営公開などをして、その数字をもとに選手側と折り合うのが筋かもしれない。

球団数
2005年現在にして思えば、何事もなかったかのように12球団が続いているわけだが、果たしてこの状態が続くのか、今後も経営不振に陥る球団が出るのか、はたまたエクスパンションで球団数を増やしていくのか、という論議は全くどこかに行ってしまった。

2リーグ12球団というのはもう半世紀続いたシステムなので、確かに安定構造であり、もしこれを変えるとなると、縮小方向にせよ拡大方向にせよ多大なエネルギーを必要とするだろう。とりあえず急激かつ歴史が台無しになるようなラジカルな改革は避けられたが、だからと言ってこのシステムが制度疲労を起こしていることを忘れてはならない。球団数というテーマはその中の一つとして、避けては通れない論議だろう。


相変わらず長い試合時間
これもオープン戦からパ・リーグ5日間を見た限りにおいて、という前置きつきだが、昨年までと変わった印象がない。低反発球使用効果で投手戦が増え、少しは試合時間が短縮されるかと期待していたが、15試合平均の試合時間は3時間17分と、多少マシになった程度だ。